朽ち果てしアイリスの薗(2)

長編の続きです。
話数、決定しました。
全15話完結の予定。

メールと電話によって伝えられた真実。
この真実が連れてきた依頼とは？


続きからどうぞ。

落ちて割れたカップと、それによって怪我をしたあたしの指を心配する安原さんとリンさんの声が、どこか遠くから聞こえてるような気がした。
先ほどリンさんから告げられた言葉が、頭のすべてを支配する。














・・・・・・・・・・ジーン・・・・・・・・・・





彼に、何があったの・・・・・・・・・・・・？

















「まどかから正式に依頼があった。」


数分後、所長室から出てきたナルの顔からは、何も読み取れなかった。
あたしの指の怪我は幸いにも大したものじゃなくて、今は絆創膏を貼っている。
あたしの出した紅茶を飲みながら、ナルはあたしに命令した。


「麻衣。ぼーさんたちに連絡を。」

「了解。」


・・・・・・・・ぼーさんたちも呼ぶんだ。
電話をかけながら、あたしは考え込んだ。
一体、どんな依頼なんだろう？
ナルが声を荒げてたことも気になるし、なにより、










ジーン。











一体、何があったんだろう。
ジーンは優秀な霊媒だし（あたしは身をもって知ってる）、飄々としているが抜け目のない性格だ。
余程のことがない限り、失敗はしない。

全員に電話をかけ終わって振り返ったあたしの表情から何か読んだのか、ナルは先手を打ってきた。


「ジーンのことも含めて、明日全員揃った時に説明する。」

「・・・・・うん、わかった。」


そうして、あたしはその日事務所を後にした。
どういう顔をしてナルと向き合えばいいのかわからず、あたしはナルのマンションではなく自分のアパートに帰った。








翌日、午前10時。
事務所に揃った協力者の面々とともに、あたしと安原さんは説明を受けた。


「本国から依頼があった。」


ナルのきれいな白い指が資料をめくる。
ぼーさんたちは、あたしがそれぞれの好みに合わせて淹れたお茶を飲みながら、続きを促した。


「現象としてはたいしたことはない、よくあるものだ。」


ナルの話を要約するとこうである。
ケンブリッジの郊外にある小さな劇場で、毎年この時期に若い女性の霊が出るらしい。
昼の間は劇場の建物内部をさまよい、夜になると裏庭の湖に佇むという。
それはもう10年ぐらい続いていて、害を為すようなこともなかったので、報告を受けていたSPRは小さな調査チームを派遣して毎年データを取っていた。
が、今年、その女性の霊が人に憑依するということがあり、それは何度も起こった。
憑依されたのはその霊と同じくらい若い女性たち。幸い害はないものの、毎日のように人に憑依し、泣き叫ぶという。
劇場にやってくるお客にも憑依したため、劇場関係者は黙っていられず、とうとうSPRに本格的な調査を依頼してきた。


「本国のほうで対応できないわけ？」


綾子が当然の疑問を口にする。
ナルが答えた。


「この程度の現象なら僕が出るまでもなく解決できるはずだ。本国の調査チームもそこまで落ちぶれてはいない。」

「じゃあ、なんでよ？」












「女性の霊が泣き叫ぶんだ。『ジーン』と。」













事務所は静まりかえった。誰も何も言えず、重い空気が漂う。
まさかそこでジーンの名が出てくるとは。


「そして、本国の調査チームが、ジーンの気配を感じたという報告がある。
何か結界のようなものに囚われていて、様子はわからなかったらしいが、確かにジーンだと。
僕に依頼が回ってきたのはそのせいだ。
ジーンが未だこの世にとどまっていることを知っていたのはここにいるメンバーとまどかだけだった。
本国の上層部の連中がこの依頼を聞いて、まどかに確かめに来たらしい。
圧力をかけられて、まどかも黙っていられなかったといっている。」


それで昨日あんなに怒鳴っていたわけか。納得。
現象としてはたいしたことはなくても、ジーンが関わってくるとなれば話は別だ。ナルは興味を抱かずにはいられない。
そして、それはあたしも同じだ。



「でもよぉ、ナルちゃんや。なんで俺らまでなわけ？」

「ジーンのことを報告したときに、まどかが報告してしまった。日本支部での協力者と、麻衣の能力について。」

「・・・へ？」


いきなり自分の名前が出てきて、驚いた。
みんながあたしを振り返って、固まってしまった。
ナルもあたしの方を向いて続ける。


「今現在、僕よりも麻衣のアンテナの方がジーンに近い。ジーンとコンタクトを取れる者として、麻衣には特に緊急要請がかかっている。」

「・・・・・・あたし、英語そんなにちゃんとしゃべれないんだけど、いいの？」

「端から期待していない。」


あーそうかい。そうですかい。
どうせ大学の英語の試験はギリギリですよっ。

そこでナルは全員を見回した。


「この調査に参加するかどうかは自由です。都合の悪い人は辞退してくれてかまいません。」


結局、誰も辞退する者はなく、全員参加ということになった。
リンさんが全員に資料を渡す。


「詳しいことはこの資料を読んでください。出発は5日後です。」












5日後、あたしたちは成田空港から飛び立った。



















ジーン、無事、だよね・・・・・？
















朽ち果てしアイリスの薗　　　　　劇場で叫ぶ女の霊
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ずっと、あなたを探してる。