レディ・ファースト

初更新は、短編。
ナルは英国紳士だというお話（？）。
ナル：19歳　麻衣：18歳（大学１年生）　6月。



お読みの方は、続きからどうぞ。

いつもあたしばっかり。




それって、ずるいと思わない？
























「ナルって、『好き』って言わないよね。」

「・・・・・は？」


渋谷区某所の超高級マンションにあるナルの部屋。
半年ほど前から其処に半居候しており、今ちょうどリビングで大学の課題と検討していたあたしは、ちょうど今考えていたことをぽろっと口に出した。
それを聞きとがめたのか、同じくリビングのソファに座り、取り寄せたばかりの本を読んでいたナルが顔を上げた。


「今ちょっと考えていたんだけど。」


あたしは立ち上がって、ナルが座っているソファの足元に座った。


「あたし、ナルに『好き』って言われたこと無いよね。」

「だから？」


はっきり言って、読書の邪魔だ。
ため息と表情に出てますよ、所長。


「なんで言ってくれないの？」

「言う必要を感じない。」


予想通りの反応だ。
でも、言ってほしい。
確かな言葉が、欲しい時だって、ある。

俯いたあたしを見て、ナルは再びあからさまなため息をついて本を閉じた。
どうやら、話を聞いてくれるらしい。


「何を言われた？」

「ふぇ・・・？」

「何か言われたから、そんな事を考えていたんじゃないのか？」


お見通しかよ。くやしい。
こういうのって、反則だ。

俯いたまま何も言わないあたしにナルは問いかける。


「麻衣。」

「・・・・・・大学で、告白された、から。」

「・・・・・・・。」


無言で返すのか、そこは。
ちょっとはヤキモチ妬いてくれるかな、と期待したあたしは馬鹿ですか。


「『好き』ってストレートに言われたの初めてだったから、ちょっと戸惑っちゃって。『彼氏がいる』って断ったんだけど、『好き』って言われたのが、なんか、新鮮だったの。」

「・・・・・・・僕にどうしろと？」


・・・・・ときどきナルってこっちが頭抱えたくなるほど鈍感だよね。
いや、こういう方面に疎いのはわかってるけどさ。






「ナルの『好き』が聞きたい。」






ねぇ、これってワガママ？
でも、これくらいのワガママ、許してよね。


「いっつもあたしばっかり『好き』って言ってるもん。ずるいと思わない？」

「思わない。」

「なんでさ。」

「・・・・・・言わなくてもわかってると思っていましたが？谷山さん。」


くそぅ。ああ言えばこう言う。


「わかってるけどねっ、たまにはナルから言ってほしいのっ！！」


ナルが噛み付いたあたしの顔をじっと見つめる。
そして、綺麗な笑みを浮かべた。
皮肉めいてる笑み、だけど。



「・・・・・僕は英国紳士ですので。」

「・・・・・・はい？」

「レディ・ファーストを心がけているんですよ。」










・・・・・・それって、なんか違う気が・・・・・。




「・・・・・英国紳士ならっ、女性をやさしくリードするんじゃないんでしょーかっ！！」

「リードして欲しいのか？」

「あたりまえでしょうがっ！！」


普通女の子は誰だってそうだっつーのっ！！
女心がわかってないにもほどがある。
リンさん、もうちょっとしっかり教育してください。

いきり立つあたしの腕を、ナルが唐突につかんだ。
えっ！？と思った瞬間には、目の前には神様に不平等さを訴えたい程綺麗なナルの顔。







「なら、リードしてやる。」









ついで、唇が触れる感触。
気づいても、時すでに遅し。



「・・・・んっ・・・・」




腰が砕けそうなほどの、快感。

呼吸が苦しくなって、何とか隙間をあけて息を吸えば、その隙間をこじ開けられ、咥内をナルに貪られる。

深くて、長い、ナルのキス。






「・・・・・・はぁっ！！！」


ようやくの解放に、あたしは新鮮な空気を求めて、大きく息をした。
そして、目の前のナルをにらみつける。


「こちらの主導権は譲るつもりはないな。」

「・・・・・・レディ・ファースト精神はどこいったんだ・・・・。」

「ならおまえがどちらもリードするか？」

「結構ですっ！！というか、ナルがどっちもリードしたらいいじゃんかっ！！」

「日本は男女平等の精神のはずでは？」

「そうだけどっ！！」


たまには、ナルからの『好き』が欲しい。
この際贅沢でも貪欲でも傲慢でもいい。
とにかく、欲しいものは欲しいんだってのっ！！








「・・・・・麻衣。」





ため息とともに名前を呼ばれて、俯いていたあたしは顔を上げた。
ナルはあたしを抱き寄せた。

耳元にかかる、吐息。



















「I love you more than anyone.」


















・・・・・・・・・反則だ、こんなの。




真っ赤な顔をして小さく抗議したあたしの唇を、ナルは小さく笑って再び塞いだ。












レディ・ファースト
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「僕は誰よりもおまえを愛す。」